医療法人の理事長先生の中には、個人で所有している診療所の土地・建物を医療法人に賃貸し、その賃料を受け取っているという方も多いかと思います。
不動産所得として確定申告が必要なのですが、賃料に対して、減価償却費などの経費が少ないので、不動産所得が黒字になってしまい、想像以上に税金負担が増えてしまっている方もいらっしゃいます。
本記事では、この問題を解決する手段のひとつとして、資産管理会社を活用した不動産の法人移転という手法を解説します。メリットだけでなく、リスクや注意点も含めて中立的にご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
医療法人理事長の不動産所得に税負担が重くなりやすい理由
役員報酬に不動産所得が上乗せされると高い税率がそのままかかる
個人の所得税は「累進課税」という仕組みで、所得が高くなるほど税率が上がります。医療法人の理事長は、役員報酬だけでもすでに所得が高い水準にあることが多いため、そこに診療所の賃貸に関する不動産所得が加わると、不動産所得の部分にも高い税率がそのままかかってきます。
具体的には、課税所得が1,800万円を超えると所得税率は40%、4,000万円を超えると45%となります。住民税10%を合わせると最大で55%の税率が適用されるケースも珍しくありません。
たとえば、役員報酬が3,000万円の理事長先生の場合、不動産所得(賃料収入-経費)が年間200万円あると、その上乗せ分に税率50%が適用され、毎年約100万円が税金として発生する計算になります。10年間で1,000万円ですので、対策を講じる意義は十分あります。
資産管理会社(MS法人)を活用した不動産移転の仕組み
「個人→医療法人への賃貸」では所得分散にならない
そもそも、個人が診療所の土地・建物を医療法人に賃貸する目的は、単に賃料収入を得ることよりも、医療法人の収入を分散させることにあります。
診療報酬から経費を差し引いた利益が理事長先生個人の所得となると、累進課税によって大きく課税されてしまいます。そこで医療法人化し、主に以下の方法で節税を図ります。
- 役員報酬により家族への所得分散
- 法人内に利益を残し退職金として受け取ることで、課税タイミングの分散
また、診療所の賃貸料を医療法人の経費とすることで所得分散を図ることもできますが、その賃料を理事長先生個人が受け取ってしまうと、結果的に所得分散ができていないことになります。高い税率の個人に戻ってきてしまうためです。
資産管理会社(MS法人)の活用
資産管理会社が貸主となり医療法人に不動産を貸すことで、医療法人の収入を資産管理会社へ移すことができます。資産管理会社は医療法人ではできない節税対策が可能であるため、医療法人が得た収入の分散を図りながら節税を完結させることができます。
資産管理会社での節税を「完結」させるための工夫
資産管理会社での主な節税手法は以下のとおりです。
医療法人の理事にできない家族を役員に加え、所得を分散する
医療法人の理事は、地域によって成人であることが求められるケースや、税理士の判断によっては医療系の大学に通っていないお子様は理事になれないという考え方もあります。しかし、資産管理会社の役員は15歳以上であれば就任できます。まだ医療系でないお子様でも役員として報酬を支払うことが可能で、所得を世帯内で分散させ、各人の給与所得控除も活用しながら税負担を下げることができます。
中小企業倒産防止共済(セーフティ共済)の活用
医療法人では加入できませんが、資産管理会社であれば加入できます。掛金(月額最大20万円、累計800万円まで)を全額損金算入できるため、法人の課税所得を圧縮しながら将来の資金として積み立てることが可能です。
法人保険による課税の繰り延べ
医療法人と同様に、法人保険を活用した節税が可能です。一定の保険料を損金算入し、解約返戻金を将来の退職金原資に充てるなど、課税のタイミングをコントロールする手段として活用されます。
その他の節税・資産形成策
医療法人ではできない別事業への投資も可能です。たとえば、資産管理会社で診療所とは別の賃貸アパートなどを購入し賃貸することで、節税効果を得ながら資産形成をすることもできます。
ポイント:資産管理会社は「器を作るだけ」では節税になりません。役員報酬による所得分散・セーフティ共済・法人保険を組み合わせて、法人内で税負担を完結させる設計が不可欠です。
注意点:コストとデメリットを必ず把握してから検討を
資産管理会社の活用にはメリットがある一方で、以下の点にも注意が必要です。
- 法人設立・維持コスト:設立費用(株式会社で約25万円前後)、毎年の法人住民税均等割(赤字でも最低約7万円)、税理士報酬などのランニングコストが発生します。
- 譲渡所得税が発生するケース:物件の譲渡価格によっては、多額の譲渡所得税が生じることがあります。
- 不動産取得税・登録免許税:法人が不動産を取得する際には、これらの税金が別途かかります。
- 最終的な個人への還元時の課税:法人の利益をそのまま理事長先生が役員報酬で受け取ると節税効果がありません。節税を完結させる設計がなければ、かえってコスト増になるリスクがあります。
重要:節税効果とコストを比較したうえで「本当にメリットがあるか」を判断するために、必ず事前にシミュレーションを実施してください。個人の所得状況・物件の状況・家族構成によって、効果もリスクもまったく異なります。
まとめ
医療法人の理事長先生が個人所有の診療所の土地・建物を法人に賃貸しているケースでは、不動産所得への税負担が思いのほか重くなりがちです。資産管理会社を活用した不動産の法人移転は、この問題に対処する有効な手段のひとつですが、設計を誤ると節税どころか増税になるリスクもあります。
改めて、この手法のポイントを整理します。
- 役員報酬が既にある理事長先生は、不動産所得の上乗せ分に高い税率(所得税40%+住民税10%)が適用されるケースがある
- 医療法人ではなく「資産管理会社」に不動産を移転することで、所得の発生源を分けることで、将来の資産活用の自由度も確保できる
- 資産管理会社に所得を移すだけでは不十分。家族への役員報酬・セーフティ共済・法人保険を組み合わせて法人内で節税を完結させることが重要
- 譲渡所得税・法人設立コスト・最終的な個人への還元時の課税など、デメリットもあるため、事前シミュレーションが必須
「自分のケースでは効果があるのか?」「どのくらいの節税になるのか?」が気になる先生は、ぜひ一度、専門家に現状の数字をお伝えのうえ、シミュレーションを依頼してみてください。株式会社ハルでは、医師・歯科医師の先生方の財務状況を丁寧に分析し、最適なプランをご提案しております。まずはお気軽にご相談ください。