資産規模が大きくなるほど、相続における「見えないリスク」が増えていきます。医師・歯科医師の先生方の中にも、株式や投資信託を多く保有されている方は多いかと思いますが、相続が発生したとき、それらの資産は「すぐに動かせる」とは限りません。今回は、相続と株式にまつわる、意外と知られていない現実についてお伝えします。
株が暴落しても売れない…相続で本当に起きている現実
「相続と株式」というテーマは、意外と具体的に考えられていないことが多い分野です。株式は現金化しやすい資産というイメージがありますが、相続が発生するとその前提は大きく変わります。相続が始まった段階では、誰がどの財産を相続するのかが確定しておらず、原則として株を自由に売却することはできません。相続人全員の合意が整い、遺産分割協議が成立し、名義変更など一連の手続きを終えて初めて売却が可能になります。
そのため、相続手続きの途中で株価が急落しても、「今すぐ売って損失を抑えたい」と思っても動かせないという状況に陥ることがあります。実際、過去の相場急落局面では、相続手続きの最中で身動きが取れず、株価が下がっていくのをただ見守るしかなかったご家族も少なくありません。相続人が複数いる場合、誰がどの銘柄をどの程度相続するのかを決めるだけでも時間がかかりますし、証券会社での相続手続きや名義変更は数日で終わるものではありません。
相場が大きく動く局面で何もできない時間が続くことは、金銭的な不安だけでなく精神的な負担にもつながります。結果的に株価が回復すれば「売らなくてよかった」と感じられるかもしれませんが、それはあくまで結果論であり、状況によってはさらに値下がりしていた可能性も十分にあります。
残された家族が困らないために今できること
こうした実例を踏まえると、相続対策は「節税」だけでなく、「相続手続き中は資産を動かせない期間が生じる」という現実を前提に考える必要があります。特に高齢になってからも値動きの大きい個別株を多く保有している場合、そのリスクを相続人がそのまま引き受けることになりかねません。そのため近年は、値動きが比較的安定した商品や、インデックス投資を含む分散投資へ段階的にシフトしておくことを勧められるケースが増えています。
実際の相続現場では、数百銘柄もの株を分散して保有している方や、株主優待を楽しむ目的で多くの銘柄を少しずつ持っている高齢者の方も多く見受けられます。また、一定以上の資産をお持ちの方ほど、銀行や証券会社の担当者の提案をもとに商品を購入し、「内容はよくわからないが勧められるままに保有している」というケースも少なくありません。しかし、どの金融商品を選ぶかは、そのまま「相続のとき、誰がどのようなリスクや手間を負うのか」に直結します。
2025年以降の相続相談では、制度改正や市況の変化をきっかけに、「いかに節税するか」という視点から、「残された家族が困らない形で、どう資産を引き継ぐか」という考え方へと重心が移りつつあります。
生前のうちに資産内容を整理し、換金のしやすさや手続きの負担まで含めて考えておくことが、これからの時代の相続対策としてますます重要になっていくのではないでしょうか。